磁気冷凍とは？

Amazon.co.jp : 防災用品（広告）

磁気冷凍（じきれいとう、Magnetic Refrigeration）とは、気体の圧縮・膨張を利用する従来の冷凍サイクルの代わりに、磁気熱量効果（Magnetocaloric Effect: MCE）と呼ばれる固体材料の熱的性質を利用して温度を下げる冷却技術です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━
1. 原理 ― 磁気熱量効果（MCE）
━━━━━━━━━━━━━━━━━
1) 磁化過程
　・磁気冷凍に用いる「磁気熱量材料」（Gd（ガドリニウム）や La(Fe,Si)₁₃、MnFePAs など）は、キュリー温度近傍で強磁性↔常磁性の転移を起こしやすく、外部磁場が加わるとスピンが整列 → 配列エントロピーが減少 → 発熱します。

2) 脱磁（消磁）過程
　・磁場を取り去ると整列が崩れてエントロピーが増大、逆に熱を吸収（吸熱）して材料自身が冷えます。

3) サイクル化
　・(A) 磁化させて発熱 → 熱交換器で熱を外部に捨てる
　・(B) 磁場を弱めて吸熱 → 冷却対象から熱を奪う
　この A–B を熱再生器（Active Magnetic Regenerator: AMR）を介して連続運転し、実用的な温度差（数十 K 〜 100 K 超）を得ます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━
2. 従来方式との比較
━━━━━━━━━━━━━━━━━
・媒体：圧縮機も冷媒ガスも不要（フロン・CO₂ など温室効果ガスを排除）
・効率：理論的に同等の温度条件で COP（Coefficient of Performance）が 20–50% 向上しうる
・騒音／振動：可動部が少なく静粛
・課題：
　- 高性能永久磁石や希土類材料が高価
　- 1–2 テスラ級の磁場生成装置が必要（大型化・重量化）
　- 磁気熱量効果が顕著な温度幅が狭い ⇒ 多段 AMR や材料組成最適化が不可欠

━━━━━━━━━━━━━━━━━
3. 応用・開発状況
━━━━━━━━━━━━━━━━━
・超低温：1930 年代から断熱消磁（ADR）で mK 領域を実現し、宇宙望遠鏡・量子実験で使用中。
・室温冷蔵：1990 年代後半 Zimm らが Gd 合金で初の卓上プロトタイプを実証。欧米・日本・中国の企業／大学が家庭用冷蔵庫・ワインセラー・サーバ冷却などを開発。
・水素・ヘリウム液化：ネオジム磁石と多段 AMR により高効率化の研究が進行。

━━━━━━━━━━━━━━━━━
4. 代表的磁気熱量材料
━━━━━━━━━━━━━━━━━
・Gd および Gd-Si-Ge 系（室温付近で大きな ΔT_ad ≈ 3–5 K/T）
・La(Fe,Si)₁₃H_x 系（安価な Fe 系、ΔS_m 大、ヒステリシス小）
・MnFeP_{1−x}As_x（ヒステリシス極小、元素コスト低）
・CrBr₃, Dy₂Ti₂O₇ など極低温用

━━━━━━━━━━━━━━━━━
5. まとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━━
磁気冷凍は「磁場をかけて温め、磁場を抜いて冷える」という固体材料の磁気熱量効果をサイクル化した環境配慮型の冷却方式です。ガス冷媒を用いないうえに、理論効率も高いため、低温科学から家庭用冷蔵、再エネ由来の液体水素インフラまで幅広い応用が期待されています。一方で、強磁場・材料コストといった実装上の壁を越えるために、多層 AMR 設計、安価元素系合金の開発、磁石構造の軽量化など、研究開発が活発に続けられています。